糖尿病術前血糖コントロール

糖尿病術前血糖コントロールを改善する

術前の血糖管理

術前の血糖管理

術前血糖コントロールのため、入院第1病日からメトホルミン、リナグリプチンを中止し、強化インスリン療法を開始した。本症例は腎症第2期疑い、高血圧症合併症例であるため、食事カロリーを25-30kcal/kg/dayとして1600kcal/dayに設定し塩分6g食とした。インスリンアスパルト2単位を各食直前、インスリンデグルデク4単位夕食直前投与で各食前血糖110-155mg/dL、眠前血糖115-180mg/dLと血糖コントロールは良好であった。インスリン自己注射の指導を実施するも本人の手技習得は困難で、退院後は同居の義娘が投与することとなった。少量のインスリンで血糖コントロール良好であったことと義娘の負担を考慮し、BOTで血糖管理を行う方針となった。メトホルミンは周術期内服禁忌であることから、周術期の血糖管理も視野に入れて、入院第4病日からリナグリプチン5mgを再開しインスリンアスパルトは中止した。日本糖尿病学会によれば術前血糖コントロールの目安は、空腹時血糖140mg/dL以下、食後血糖200mg/dL以下、尿糖(1+)以下であるが、退院時には各食前血糖95-135mg/dL、眠前血糖115-187mg/dLであり、手術は施行可能な血糖値であった。退院、退院後BOT継続として当面当科外来で加療継続の方針である。

入院に伴い、糖尿病合併症についても精査を行った。腹部エコー施行したが、膵疾患の所見は認められなかった。神経障害については、CVR-Rと下肢振動覚低下あるものの、自覚症状なく、アキレス腱反射は保たれており、糖尿病神経障害の存在も疑われるが明らかではないと判断した。微量アルブミン尿あり、腎症第2期が疑われる。食事療法、血糖・血圧管理の上、外来で再検の方針である。眼科受診し、白内障術後の所見であったが、網膜症の存在は否定的であった。

#2、高血圧症、脂質異常症

食事療法、内服継続とした。血圧110~130台/60~70台mmHgと降圧ほぼ良好であった。退院時は院内採用薬の関係でニトレンジピンをアムロジピンに変更した。外来で加療継続の方針である。

#3、子宮筋腫

不正性器出血があり、他院産婦人科で子宮筋腫を疑われた。当院産婦人科受診し、骨盤MRI施行され、壁内子宮筋腫の診断となった。単純子宮全摘+両側付属器切除術を予定している。

#4、左乳癌疑い

左乳房にしこりを自覚し、当院外科紹介受診し、左乳輪近傍に40×30mm大の硬結を触知したため、乳腺エコー、マンモグラフィ施行したところ乳癌が疑われ、左腋窩リンパ節にも転移を疑う所見が認められた。針生検施行して、今後の方針を決定する予定である。

#5、足白癬・爪白癬

足底・趾間に落屑あり、爪の粗造化・白濁あったため、皮膚科受診し、KOH (+)で足白癬・爪白癬と診断された。同日からルリコナゾール外用とテルビナフィン125mg/day内服を開始した。足白癬は糖尿病足病変のリスクとなるため、治療が不可欠である。入院中に足病変についても患者教育・足のセルフケアを指導を行った。

【退院時処方】リナグリプチン 5mg/day、ピタバスタチンカルシウム 1mg/day、ニトレンジピン 5mg/day、ブロマゼパム 10mg/day、テルビナフィン125mg/day、インスリンデグルデク夕4単位、ルリコナゾール外用

総合考察

子宮筋腫合併の2型糖尿病に対し術前血糖コントロールを施行した一例である。手術では外科的侵襲により交感神経系が賦活され、アドレナリン、グルカゴン、コルチゾール、成長ホルモンなどのインスリン拮抗ホルモンの分泌増多と末梢のインスリン抵抗性の増多により、糖尿病病態が悪化する。また、周術期の高血糖は、白血球遊走能、貧食能の低下を招き感染症や創傷治癒の遅延のリスクを増加させるだけでなく、浸透圧利尿による循環血漿量の低下、虚血時における脳障害の増幅高浸透圧性昏睡、心血管イベントなども合併しやすいため、本症例では術前に入院加療でインスリンを導入して血糖コントロール施行した。なお、本症例では腎症第2期を合併していたが、腎症第2期は血糖・血圧・脂質などの危険因子を適切に管理すれば、腎症の寛解が期待できるとされている。高血圧・脂質異常症については入院前より内服加療にてコントロール良好であったが、血糖はコントロール不良であった。今回の入院で血糖良好となり、今後も血糖良好であれば腎症の寛解も期待される。

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